『幸福の証』

『幸福の証』(伝説ペナルティその2)

「おにぃちゃん、遊んでぇ?」
扉の向こうで9つ年が離れてる弟、ヒトシの声がする。
『一人にさせてくれよ…』
枕に顔をうずめながら、優志は昼間のことを考えていた。

今日、優志は同じクラスの犬飼由美に
「好きだ」と打ち明けた。
由美は寡黙で無表情な女の子なので、クラスの男子からは
『何を考えているのかわからない』とか、
『のび太くん』だとか言われている。
しかし優志とだけは、趣味が似ているので
普段からよく話をしていたし、
優志にとってはそれが嬉しかった。

「フゥ…」
優志は何度目になるかわからないため息をついた。
覚悟はしていたが、フられてみるとツライ。
虚脱感だけが体を支配する。
頭の中では、昼間の光景が何度も何度もぐるぐると回っていた。

『ごめん。私、大野君の気持ちには応えられないわ。』

普段、滅多に表情を変えることがない由美が見せた、
申し訳なさそうな顔が浮かぶ。

優志の頬を涙がこぼれた。

考えれば考えるほど、涙がこみ上げてくる。
『明日会ったときに、何を話したらいいんだろう?』
『そして何をしたらいい?』
『これからは今まで通りに話できないのだろうか…?』
『それより話もできないのでは…?』
『…忘れないといけないのだろうか…』

********

どのくらい経っただろう。
顔を上げると、部屋は既に真っ暗になっていた。
枕元にある目覚まし時計は短い針が8の所を指している。
『眠ってたんだ…。…お腹、空いたな…。』
優志はそろそろとベッドから這い出て
自分の部屋のドアを開けた。

「あら、優志。よく眠ってたわねぇ。
夜ご飯のときに呼んだのに起きなかったのよ? 今から食べる?」
部屋の明かりと一緒に優志の母親の声が飛び込んできた。
「え、あぁ、うん。」
「じゃ、暖めるわね。ちょっと待ってて。」
居間では優志の父親が横になってテレビを見ている。
「あれ? ヒトシは?」
席に着きながら、いつもだったら
すぐに飛び込んでくる弟のことを聞いた。
できるだけ平静を装って。
「もう寝たわよ。疲れたんじゃないかしら。
あなたが寝てるときにさっちゃんが来て、ケンカしたのよ。」
「さっちゃんが?」
「あなたの部屋の前でヒトシと、どっちがあなたのことを好きかって、
ずーっとケンカしてたのよ? 気づかなかった?」
『そうだったんだ…』
「それにタッちゃんも来たわよ。寝てるって言ったら、
心配そうにしてたけど。」
『みんな来たんだ…。』

優志の中で何かが抜けていくのがわかった。
涙があふれてきて、こぼれ落ちそうになる。
「ゴメ…。母さん。ご飯…やっぱりいいよ。」
中学生にまでなって泣いてるトコロを人に見られたくない。
ガタッと席を立つと優志は自分の部屋に駆け込んだ。

自分を気にかけてくれる人がこんなにもたくさん居る。
それが妙に嬉しかった。
『幸せ者だよな…。僕…。また明日から頑張ろう…。』
自分のベッドに吸い寄せられるように倒れこむと、
枕に顔を押し当て、声を殺して泣いた。


--?時間??分??秒--
(04/3/4)


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